アブストラクト

7月9日 / 7月10日 / ポスターセッション

7月9日

多体波動関数を用いた電子相関効果の第一原理的記述:トランスコリレイティッド法の開発

越智 正之 (大阪大学) [招待講演]

電子相関効果の精密な取り扱いは、第一原理計算にとって最大の課題の一つであり、 これまでも様々な試みがなされてきた。そうした試みの中に、(密度汎関数理論で用いるKohn-Shamハミルトニアンではなく) 多体ハミルトニアンに立ち戻って、変分波動関数や多体摂動論を用いてその近似解を構成するアプローチが存在する。 そうした戦略は計算コストが大きくなりやすい一方で、系統的に精度を向上させやすいという利点がある。 本講演では、そうした理論手法の一つであるトランスコリレイティッド法について紹介したい。 本手法ではジャストロウ・スレイター型の波動関数を用いるが、ジャストロウ因子によってハミルトニアンを相似変換することで、 電子相関効果の取り込まれたバンド分散を比較的低コストで描くことができる。 いくつかの固体や原子への計算の適用例を紹介し、多体波動関数の自由度と得られる計算精度との関係について議論したい。


信頼性の高い独立粒子近似を与えるQSGW法とモデル化手法

小谷 岳生 (鳥取大学) [招待講演]

従来のDFT計算の手法では、バンドギャップや3dバンドの相対位置などを正確に予言できないことが多い。このためDFT計算が与える独立粒子近似に基づく計算では、信頼性のある物理量計算が困難になる。著者は、QSGW法(Quasiparitcle sefl-consistent GW法)を開発し、複合的な物質への適用や物理量計算、モデル化手法などに取り組んできた。計算法の概略、その有効性、LDA+U法との比較などについて最近の成果を中心に話す。現在、「結晶構造を与えれば64原子程度までの系であれば、QSGWを元にしてのモデル化が自動的に行えること」を具体的目標として研究開発を進めているが、これについても言及する。


Pd(dmit)2系分子性導体に対する第一原理有効ハミルトニアンの系統的導出と解析

三澤 貴宏 (早稲田大学)

dmit系分子性導体では反強磁性、スピン液体、電荷秩序状態など様々な相を示すことが実験により報告されている。今回の講演では、dmit系分子性導体に対して、実験で合成されている9個の物質に対して系統的に第一原理有効ハミルトニアン導出及び解析を行った結果について発表する。特に、物質ごとの磁気的性質を非経験的計算から再現した結果及び、磁気秩序を抑制する微視的なパラメータを同定した結果についての発表を行う。
(参考文献: https://arxiv.org/abs/2004.00970 )


+Uの物理からみた弾性の謎

草部 浩一 (大阪大学)

近年多粒子系グリーン関数法を密度汎関数法による基底関数から構成して全エネルギー計算に用いるACFDT-RPA計算が実施される計算例が増えてきた。それでもなおcRPA計算が与える有効遮蔽相互作用起源の短距離相関効果を取り入れる方法論の整備は十分と言えない。そこで、多配置参照型の密度汎関数法に基づいて断熱ポテンシャル面に現れる非調和効果を、計算事例の多いグラファイトで実施した例を紹介し、実測との直接比較により+Uの物理が全エネルギー計算をどのように補正しうるかを議論したので報告する。
(K. Kusakabe, Phys. Rev. Materials (2020) at DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.4.043603.)


変分量子固有値法による第一原理量子化学計算の展開

水上 渉 (大阪大学) [招待講演]

近年量子コンピュータの開発が進み、Noisy Intermediate Scale Quantum Computer (NISQ) と呼ばれる誤り耐性を持たない中規模な量子コンピュータができつつある。 このNISQに適した方法論として現在盛んに研究がおこなわれているのが、量子コンピュータと古典コンピュータをハイブリッドさせて使う量子・古典混合アルゴリズムである。第一原理量子化学計算は、量子・古典混合アルゴリズムの代表格である変分量子固有値法(VQE)が有効であると考えられており、現在NISQの応用先の筆頭候補となっている。我々は解析的微分法の開発など、VQEを用いた量子化学計算の適用範囲を広げるための研究を進めており、本講演ではその一連の成果を紹介する。


量子計算機に適合したテンソルネットワーク法

上田 宏 (理化学研究所) [招待講演]

低次元離散格子状の古典/量子多体模型における基底状態や分配関数を高精度に推定する手法としてテンソルネットワーク(TN)法がよく知られている。TN法は、物理における「実空間繰り込み」と量子情報の「エンタングルメント」の概念が融合したものであるが、その量子情報側での発端が「隣り合う2量子ビットまでゲート操作が可能な量子計算機の古典計算機による高効率シミュレーション(G. Vidal, 2003)」にあるように量子計算機と非常に相性の良い手法でもある。近年の量子計算機の急速な発展と量子超越性の実証(Google, 2019)を受けて、量子多体系に対するTN法を量子回路で表現し、量子計算機が得意とする演算の枠組みでTNを高速&スケーラブルに最適化できるかどうかの検証が現在盛んに行われている。本講演では最近の量子計算機に適合したTN法の発展に関してのレビューを行うとともに、我々が当該研究分野で取り組んでいる内容(https://www.ipa.go.jp/files/000080386.pdf)についても紹介したい。


Minimally entangled typical thermal states法における自己相関問題の解消

後藤 慎平 (近畿大学)

行列積状態は空間一次元量子多体系の低エンタングル状態を効率的に記述する表現方法であり、この表現を用いることで空間一次元系の基底状態、短時間発展状態、そして有限温度系を数値的にシミュレートすることが可能である。現状、この有限温度系のシミュレーションには代表的な2つの手法が存在する。密度行列を拡大したHilbert空間の純粋状態として扱う純粋化を用いる方法と、Markov連鎖モンテカルロ法を用いるMinimally entangled typical thermal states (METTS) 法である。この2つの手法を比較するとHilbert空間が大きくなるというデメリットにも関わらず、純粋化を用いた手法の方が効率的であることが多い。これはMETTS法が生成するMarkov連鎖の自己相関が強く、またこの自己相関を解消しようとすると粒子数保存則などの対称性が利用できなくなることに起因すると考えられる。本研究ではこのMETTS法がもつ強い自己相関を、対称性を破ることなく著しく弱める方法を提案する[1]。一次元Bose-Hubbard模型を用いた性能評価の結果、我々が提案する方法は特に自己相関が強い状況において通常のMETTS法と比較して10倍以上の性能向上を見せることを見出した。

[1] S. Goto and I. Danshita, arXiv:2005.09455


Random Phase Product State for Canonical Ensemble

飯高 敏晃 (理化学研究所)

The method of random phase vector for calculating canonical ensemble (PRE 56, 1222 (1997), PRL 90, 047203 (2003), PRE 69, 057701 (2004)) is extended to matrix product state (MPS) and other tensor network states. Proof of the method and numerical example of the 100 site spin-1/2 antiferromagnetic Heisenberg chain are presented.

This research was supported by MEXT as “Exploratory Challenge on Post-K computer”.

https://arxiv.org/abs/2006.14459
http://www.iitaka.org/rpps/

7月10日

第一原理計算に基づく磁性体物質探索

是常 隆 (東北大学) [招待講演]

近年,第一原理計算を用いた電子状態のデータベース化,およびそれを用いた物質探索が盛んに行われるようになってきている。一方,実際の物性を考える上では,電子状態を様々な形で加工する必要がある。最近,我々は,この加工として非常に有用な,電子状態の有効模型化を自動化することに成功し,有効模型に対するデータベースを構築している。本講演では,5000を超える強磁性体の有効模型データベースから,異常ホール効果,異常ネルンスト効果を計算した結果を紹介する。また,このデータベースをもとにスクリーニングを行うことで発見に繋がった,Fe3X(X=Al,Ga)という物質についても紹介する。


格子離散化法 (LRDMC) による全電子の第一原理量子モンテカルロ法

前園 涼 (北陸先端科学技術大学院大学) [招待講演]

第一原理量子モンテカルロ法は信頼性の高い較正法としての役割を担い、全電子計算は此の用途での重要な適用対象である。価電子/芯電子では時空スケールが異なり、核からの距離に応じてタイムステップを変動させるスキームが用いられるが、ゼロタイムステップへの外挿は振舞いが悪く予見信頼性を毀損する。格子離散化法は、鈴木トロッター公式を回避して厳密解への射影演算を実現する手法で、実空間グリッドの格子点上を酔歩する拡散モンテカルロ法実装である。従前の「ゼロタイムステップへの外挿」の相当物は「ゼログリッド長への外挿」で、その収束性はよく予見信頼性が高い。ダブルブリッドによる全電子実装では「芯電子/価電子グリッド長の比」や「両者の振分判定に供する特性長」を適切に設定する必要がある。これらパラメタが計算効率やバイアスにどう反映されるかを解析し、トレードオフを実現するよう設定すると、これらのZ依存性が明らかになった(Z;原子番号)。この設定は、より大きなZ(~Z=118)においてもバイアスの少ないダブルブリッド計算を実現し、従来のコストスケール(Zの6乗)はZの5乗に改善される。


スピン揺らぎおよびスピン-軌道相互作用を取り入れた超伝導密度汎関数理論の精度検証

河村 光晶 (東京大学)

超伝導密度汎関数理論(SCDFT)は超伝導転移温度(Tc)を第一原理から求める手法であり、電子-フォノン相互作用・電子間クーロン相互作用・スピン揺らぎ効果を非経験的に取り入れた計算を行う事が可能である。我々は、スピン揺らぎ効果とスピン-軌道相互作用を同時に取り扱う手法を定式化し、35種類の単体金属(非超伝導体を含む)に対してSCDFTの系統的精度検証を初めて行った。本発表ではTcの計算結果とそれに対するスピン揺らぎおよびスピン-軌道相互作用の効果について述べる。


有限温度の自己無撞着スピンダイナミクス

諏訪 秀麿 (東京大学)

近年5d電子系等における強いスピン軌道相互作用から生じる新奇な量子ダイナミクスの研究が盛んに行われている。実験的にも非弾性中性子・X線散乱等の技術発展により、高精度なスペクトル観測が可能になってきた。一方、スペクトルの波数依存性、つまりは空間ゆらぎを理論的に取り込むことは一般的に難しく、さらなる計算手法開発が重要である。最近我々は強相関領域で有効なランダウ・リフシッツダイナミクスを中程度の相関領域へ拡張し、5d電子系の有限温度におけるスピンダイナミクスを計算可能とした。ハバード模型で記述される格子系の広いパラメータ・温度・電子フィリング領域に対して、負符号問題なく大規模に計算できる。この手法を複層イリジウム酸化物へ応用し、スピン模型では捉えることのできない縦モードのソフト化と量子臨界性を明らかにした。発表では開発した計算手法を紹介し、複層イリジウム酸化物の相転移について議論する。


機械学習・推定モデルを用いた量子モンテカルロ法と多軌道系への応用

辻 直人 (理化学研究所) [招待講演]

量子多体計算手法のなかでも、高精度かつ汎用的なものとして連続時間量子モンテカルロ法が知られている。動的平均場理論の不純物ソルバーとして用いることで様々な量子多体格子模型への応用を持つ。ところが、量子モンテカルロ法を多軌道系や複数サイトのクラスターに拡張された不純物問題に適用すると、一般に負符号問題を生じ統計誤差が爆発してしまう。そのような困難を緩和することを動機として、本講演では(i)推定モデルを使った量子モンテカルロ法の最適展開基底の推定、(ii)機械学習を用いた量子モンテカルロ法と多軌道系への応用という二つの試みについて議論したい。


非平衡グリーン関数法とその応用:励起子相の非平衡誘起

村上 雄太 (東京工業大学) [招待講演]

物質を光で励起することで、それまで隠れていた物性の観測や誘起が可能となる。例えば、超伝導Higgsモードの観測や光誘起超伝導が実験的に報告されている。これらの励起に伴う電子の高速ダイナミクスを記述する理論手法として、厳密対角化、時間依存DMRG、時間依存汎関数理論そして非平衡グリーン関数(NEGF)法などが用いられてきた。なかでも、NEGF法は大きな系と電子相関効果の記述に適しており、この手法の骨子と最近の進展を紹介することが本公演の目的である。
公演の前半ではNEGF法の基礎と発展の方向性を説明する。さらに、最近公開されたNEGF法ための汎用ライブラリNESSiを紹介する。後半ではNEGFの応用例として、二種類の励起子相の非平衡誘起の理論を紹介する。一つ目の例では、半導体を舞台に、光励起による電子とホールの生成とフォノンによる冷却により、励起子が凝縮する過程を議論する。二つ目の例では、多軌道強相関電子系の高スピン・低スピン転移で生じる励起子相に焦点を当てる。励起子相の転移温度より高温の低スピン状態を励起することで励起子相が誘起されることを示す。この背景には、低スピン状態の低いエントロピーに由来した励起後の系の温度の低下があることを議論する。


Bose-Hubbard模型の量子クエンチ後の非平衡ダイナミクスに関する量子シミュレーションと数値計算の比較

段下 一平 (近畿大学)

量子クエンチとは量子系のハミルトニアン中のパラメータを急峻に変化させることである。冷却気体系やトラップされたイオン系などの制御性の高い量子プラットフォームにおいてはそのようなパラメータ操作が容易なため、量子クエンチ後の非平衡ダイナミクスを調べることがこれらの系の重要なプローブとして定着している。しかしながら、古典計算機を用いた数値計算でそのようなダイナミクスをシミュレーションすることは一般的に困難であり、効率のよい計算手法の開発が望まれている。本研究では、Bose-Hubbard模型の量子クエンチ・ダイナミクスを光格子中の冷却気体から成る量子シミュレータといくつかの数値計算手法を用いて解析し、それらの結果を比較する [1]。空間1次元系に関しては、行列積状態を用いた手法による数値的に厳密な結果との比較から、量子シミュレーションのアウトプットの定量性を確認する。高次元系に関しては、切断Wigner近似法の有用性と限界について議論する。

[1] Y. Takasu, T. Yagami, H. Asaka, Y. Fukushima, K. Nagao, S. Goto, I. Danshita, and Y. Takahashi, arXiv:2002.12025v2 [cond-mat.quant-gas].


キタエフ模型におけるスピン輸送

古賀 昌久 (東京工業大学)

電流を伴わないスピン輸送現象に関する研究が盛んに行われている。通常の磁気秩序を示す局在スピン系ではマグノンがスピン流のキャリアであると考えられているが、最近になって、磁気秩序を示さない1次元量子スピン液体でもスピノンによってスピン輸送が実現されることが明らかにされた。本研究ではキタエフ模型を取り上げ、2次元量子スピン液体におけるスピン輸送現象について考察する。片側のエッジにパルス磁場を印加した後の非平衡ダイナミクスを時間依存マヨラナ平均場近似により解析した。その結果、静磁場のないバルク領域では磁化振動は出現しないが、静磁場を印加した反対側のエッジにおいて磁化振動が発生することを明らかにした。詳細に調べた結果、このスピン輸送現象が遍歴マヨナラ粒子を媒介として実現していることも明らかにした。本発表では、これらの解析手法や結果の紹介に加えて、ハイゼンベルグ相互作用の存在に対するこのスピン輸送現象の頑強性の議論も行う予定である。


深層学習の最適化と汎化誤差:非凸性の観点から

鈴木 大慈 (東京大学) [招待講演]

深層学習は現在広い応用を持つが,その理論的原理解明にはまだ発展の余地を残す. 本講演では,深層学習の学習効率を汎化誤差理論と最適化の観点から考察する. 前半では,深層学習に適応的関数近似能力があることを紹介し,対象の関数クラスがスパース性を有する場合に深層学習がカーネル法を優越することを示す. 後半では,深層学習の最適化について述べる.深層学習の最適化は高次元非凸最適化問題になるが,無限次元ランジュバン動力学の観点から解析することで大域的最適解が得られることおよびその解はガウス過程ベイズ推定量で近似でき,良い汎化性能を有することについて紹介する.


開放量子多体系ソルバとしての機械学習関数

吉岡 信行 (理化学研究所) [招待講演]

ニューラルネットワークは、機械学習の様々なタスクにおいて、分類モデル・生成モデルとして、大きな成功を収めている。その表現能力は、古典的なデータ(とその確率分布)に限らず、量子多体系の基底状態・励起状態などに対しても有効であることが注目を集めている。 本講演では特に、開放量子多体系の非平衡定常状態およびダイナミクス計算への応用について議論する。


深層学習の情報統計力学:レプリカ理論とシミュレーション

吉野 元 (大阪大学) [招待講演]

ニューラルネットワークによる機械学習の理論的理解は、ランダム系の統計力学において歴史的に重要な課題で、単純パーセプトロンなどの系は深く理解されている[1,2]。しかし「深層」ニューラルネットワークの理論的理解は大きく立ち遅れ、実際的な応用がはるかに先行している。我々は多層パーセプトロンネットワークによる深層学習の統計力学を、レプリカ法を用いた平均場理論[3]と学習の数値シミュレーションによって解析している。その結果、入出力層近傍では学習データの増大に対して学習が速く進み、ネットワーク中央部では学習の進みがゆるやかで「遊び」を多く残すことを見出した。このネットワーク内部での不均一性は、深層ニューラルネットワークの持つ高い学習性能を理解する鍵であると考えている。

[1] E. Gardner, J. Phys. A 21, 257 (1988). E. Gardner and B. Derrida, J. Phys. A 22, 1983 (1989).
[2] 西森秀稔「スピングラスと情報統計力学」(1999)(岩波書店)
[3] Hajime Yoshino, SciPostPhys Core 2, 005 (2020).


Sachdev-Ye-Kitaev模型における多体局在の定量的解析

手塚 真樹 (京都大学)

2N個のマヨラナフェルミオンが、そのうち4個のあらゆる組み合わせでランダムな相互作用するSachdev-Ye-Kitaev(SYK)模型に、ハミルトニアンに一体の摂動項(強さδ)を加えた系で多体局在を調べた。一体項を対角化しN個の複素フェルミオンで表示した基底で各固有状態の波動関数をみると、δの増大につれ、N次元超立方体で表せるフォック空間全体に広がったエルゴ―ド的な状況から、非エルゴード的だが部分的に広がった状況を経て、フォック空間の各サイトへと局在する。我々は、低エネルギー有効模型から、波動関数のinverse participation ratio (IPR)および高次のモーメントと、固有エネルギーの準位相関とを、Nとδの関数としてフリーパラメータなしに求め、多体局在転移の位置を得た。これらの結果について、厳密対角化によるN=15までの結果と良い一致が得られた。
本研究 (arXiv:2005.12809) はFelipe Monteiro, Tobias Micklitz, Alexander Altland各氏との共同研究である。

ポスターセッション

二次元電子系におけるウィグナー結晶の変分モンテカルロ計算

加藤 岳生 (東京大学)

長距離クーロン相互作用を持つ2次元ハバードモデルの相図を多変数変分モンテカルロ法(mVMC)によって数値的に調べた。充填率と電荷秩序パターンとの整合性に依存して大きく異なる相互作用の強さで電荷秩序転移が生じることが起こることがわかった。連続体(低充填)極限では、この転移はウィグナー結晶転移につながっている。Hartree-Fockの結果との比較から、電荷秩序状態の安定性に大きな電子相関効果があることがわかった。mVMCで用いられているJastrow因子を用いたPfaffian波動関数は電子相関効果を高精度に考慮することができるため、先行研究にくらべて精度の高い相図の決定が可能になっていると期待される。


Exotic quantum phases of hard-core bosonic systems

Wei-Lin Tu (東京大学)

Thanks to the recent achievement by cold-atom experiments, an exotic quantum phase with coexisting solid(diagonal) and superfluid(off-diagonal) long-range orders, also named after the supersolid state, has been realized. In our recent works, we aimed to analyze the features of such states by numerically solving for the extended Bose-Hubbard model in the hard-core limit, featuring the usage of infinite projected entangled-paired state (iPEPS). We have demonstrated various phases under the hopping frustration/dipole-dipole interaction.


Replica Exchange Wang-Landau法によるエンタングルメント・エントロピーの計算手法の改良

近藤 千尋 (東京大学)

“エンタングルメント・エントロピーは、量子力学に由来する非局所な相関を特徴づける量であり、特に基底状態のエンタングルメント・エントロピーは系の量子性を反映した振る舞いを見せる。しかしながら、エンタングルメント・エントロピーに対する理解はいまだ完全とは言えず、特に高次元系においては解析の困難さからその理解は限定的であると言わざるを得ない。 我々は量子モンテカルロ法に基づいたエンタングルメント・エントロピーを計算する手法として、部分系の形をさらなる確率変数と見做すことで様々な部分系の形の間を遷移するモンテカルロ法を考案し、ここにWang-Landau法を用いることでサンプリング効率を向上させた手法を開発した。また、その際に基底状態モンテカルロ法を利用することで厳密な基底状態のエンタングルメント・エントロピーを計算することを可能にした。 Wang-Landau法はreplica exchange Wang-Landau法によってMPI並列が可能であり、モンテカルロ法の並列化可能性を損なわないことも本手法の特徴である。 本講演では我々の手法の解説と一次元及び二次元正方格子上の XXZ 模型における結果の紹介を予定している。”


非平衡環境下における非可積分量子多体系の熱平衡化現象

中野 颯 (東京大学)

近年、イオントラップ系や冷却原子系において、量子多体系に人工的な散逸を加え新奇な量子状態を実現する研究が盛んに行われている。これらの系は詳細釣り合いを破る量子マスター方程式によって記述され、その緩和現象の一般的な性質を理解することは重要な課題である。我々は、行列積演算子を用いた数値計算によって、弱散逸極限における密度行列の時間発展が時間依存ギブス分布と等価になることを示したので、その結果について報告する。また、孤立量子系の熱平衡化現象との間の関連性についも議論する。


LDA+DMFTにおけるデータ統合の視点

松本 宗久 (高エネルギー加速器研究機構)

巨視的な材料特性が微視的な電子状態からいかにして発現するかを定量的に記述し、第一原理からの物質・材料の設計を試みることは、固体電子論と統計力学につきつけられた古くて新しい挑戦である。我々は希土類永久磁石材料を対象としてミクロとマクロの階層間接続の方法論開発にとりくんでいる。O(1) eV 以上のエネルギースケールの電子状態から定義される O(0.1) eV 以下のエネルギースケールにおける有効量子多体問題をできるだけ厳密に解き、全体を自己無撞着に記述する強相関物質の計算手法「LDA+DMFT」は、エネルギー階層間接続の雛形とみなすことができる。この場合、電子状態には量子多体問題の解から決まる自己エネルギーデータがフィードバックされるが、電子状態へのフィードバックデータを実験に求め、実験データと理論データを「自己無撞着」に定めることも可能である[MM, T. Hawai, K. Ono, Phys. Rev. Applied 13, 064028 (2020)]。実験データ援用の量子多体計算、理論データ援用の実験データ解析、および今後の見通しとして実験・理論の包括的プロセス統合の見通しについて議論を行う。


多変数変分モンテカルロ法によるツイスト二層グラフェンの研究

岡田 健 (東京大学)

角度をつけて二枚のグラフェンを重ねた「ツイスト二層グラフェン」は、フラットバンドに起因した強相関絶縁相や超伝導相を示すことから大きな注目を集めている。本研究では、多変数変分モンテカルロ法を用いて、ツイスト二層グラフェンの物理を記述するハニカム格子上の2軌道拡張ハバード模型を解析し、先行研究で示唆されているように電荷中性点では2種類のvalence bond solid(VBS)が現れることを明らかにした。


二軌道Penrose-Hubbardモデルにおける励起子凝縮

稲吉 健 (東京工業大学)

準結晶は通常の結晶とは異なり並進対称性を持たないが,格子配列に長距離秩序を持つ物質である.Au-Al-Yb準結晶における量子臨界現象やAl-Zn-Mg準結晶における超伝導現象が実験的に見つかったことで,電子相関の効果に興味が持たれ,準結晶秩序相の理論研究が盛んに行われている.近年,準結晶と似た構造を持つ近似結晶において半導体が発見されたことで,複数バンド系である半導体準結晶の存在が期待されている.それに伴い,複数バンド系の準結晶物性にも興味が持たれている.
今回,我々は準結晶の格子模型である二次元Penrose格子上の二軌道Hubbardモデルを採用し,複数バンド系特有の物理である励起子絶縁体相(伝導帯電子と価電子帯正孔の対凝縮状態)の理論研究を行った.準周期系の効果が現れる十分大きな系を扱うことが可能な実空間平均場近似を用いることで,Penrose格子特有の電子状態を反映した励起子絶縁体相を見出した.本発表ではPenrose格子における励起子絶縁体相図,秩序変数の実空間分布や補空間分布の解析結果について議論する.


3軌道ハバード模型における多極子秩序の理論的研究

近野 直也 (埼玉大学)

スピン軌道相互作用と電子相関の協奏により、多極子秩序をはじめとする豊富な物理現象が実現することが知られている。我々はt2g電子系の物性の理解のため、平均場近似を用いて3軌道ハバード模型を解析し、クーロン相互作用U、スピン軌道相互作用λ、電子数nに関する網羅的な相図を作成した。本発表では、特にn固定でのU-λ相図と、λ固定でのn-U相図に注目し、多極子秩序を含む複数の相転移や量子臨界点の存在を報告する。


カゴメ格子上のJ1-J2古典反強磁性ハイゼンベルグ模型の有限温度相図

柿澤 文哉 (埼玉大学)

カゴメ格子上の最近接反強磁性古典ハイゼンベルグモデルは、有限温度相転移を示さない。一方、反強磁性的な次近接相互作用J2の導入により有限温度相転移が現れることが、過去の数値的研究で示唆されているが、その起源・性質は明らかでない。本発表では、ループアップデートを用いた古典モンテカルロ法による大規模数値計算によって決定した相図を示す。さらに有限温度相転移が一次転移であることを述べ、臨界終点を記述する秩序変数について議論する。


物質科学シミュレーションのポータルサイト MateriApps

井戸 康太 (東京大学)

MateriAppsは物質科学シミュレーションのポータルサイトである。国内外で開発された250以上の物質科学ソフトウェアについて、その概要や特徴を掲載することで、ソフトウェア開発者の広報活動を支援するだけでなく、実験家や企業研究者、学生の方々が計算物質科学ソフトウェアを使い始める上で有益な情報を発信してきた。
MateriAppsでは、ユーザーが自身の目的にあったソフトウェアを探すために、充実した検索機能を使うことができる。また、2018年度のリニューアル時には、ユーザーがソフトウェアを選ぶための参考情報をより充実させるために、新コンテンツである“レビュー”と“アプリコンシェルジュ”が追加された。“レビュー”では、ソフトウェアのインストール方法や簡単な利用法が掲載されている。また、“アプリコンシェルジュ”では、ユーザーから頂いた計算物質科学やソフトウェアに関する質問・要望とMateriApps開発チームによる回答や、計算手法に関するキーワード・関連ソフトウェアの説明などが掲載されている。
本発表では、MateriAppsの概要とアプリの検索方法の詳細、レビューやキーワード解説などのコンテンツを主に紹介する。また、強相関系の解析を例としてサイトの利用法についても説明する。


スピンラダー系におけるNeel-VBS連続相転移の数値的検証

荻野 卓啓 (東京大学)

“相転移における普遍性を対称性の自発的破れの観点から記述する枠組みとして、Landau-Ginzburg-Wilson(LGW) 理論がある。LGW 理論によると、異なる対称性が破れる相の間の転移は1 次転移にしかなり得ない。しかし、近年、異なる対称性が破れる相の間の2 次転移を記述する脱閉じ込め転移が提唱された。脱閉じ込め転移を示すミクロな模型として、4 体相互作用のある2 次元ハイゼンベルグ模型(JQ 模型)が提案された。しかし、有限サイズ効果が大きく、わかっていないことも多い。
そこで本研究では、JQ 模型を簡便にした模型として、4 体相互作用のある2 本足スピンラダーXXZ 模型を考案し、量子相転移について数値的研究を行なった。この模型はスピン反転対称性を破るNeel 相と、空間反転対称性を破るVBS(Staggered Dimer) 相を持ち、脱閉じ込め転移が起こることが期待される。無限系を直接扱うことのできるVariational Uniform Matrix Product Statesを用いた数値計算により、それらの間の相転移が2 次転移であることを支持する結果が得られた。臨界点、臨界指数、セントラルチャージ(c = 1) を求め、脱閉じ込め転移で期待される自己双対性を示唆する結果が得られた。”


2チャンネル近藤格子模型が磁場中で示すチャンネル選択型非フェルミ液体状態と重い電子的挙動

乾 幸地 (東京大学)

近年、PrIr2Zn20, PrRh2Zn20, PrV2Al20などの1-2-20系と呼ばれる物質群が四極子近藤格子系として注目を集めている。これらの物質群は、磁場によって四極子秩序が抑制された領域において、通常の近藤格子系とは異なる非フェルミ液体的な振る舞いや重い電子的挙動などを示すことが見出されている。本研究では、こうした特異な振る舞いを理解する目的で、2チャンネル近藤格子模型が磁場中で示す性質を、クラスター動的平均場法と連続時間量子モンテカルロ法を組み合わせた手法を用いて調べた。磁場の効果として、伝導電子スピンに対する通常のゼーマン分裂に加えて、局在した四極子自由度への結晶場分裂による効果を考慮した計算を行なった。その結果、磁場によって伝導電子のスピンと四極子の両者が絡んだ複合相関が反強秩序相から常磁性相にまたがった広い領域で増大し、そこでは片方のチャンネルの電子のみが非フェルミ液体的に振る舞うことを見出した。さらに、この領域の常磁性側では、比熱係数が増大する重い電子的な挙動が現れることも見出した。講演では、これらの結果を、通常の近藤格子系に対する理論や1-2-20系の実験結果と比較して議論する。


二次元量子格子系テンソルネットワークソルバーパッケージ TeNeS

本山 裕一 (東京大学)

テンソルネットワーク(TN)法は強力な表現・計算方法として近年ますます注目を集めており、ライブラリも充実してきている。 しかし、簡単に試せるアプリや、大規模並列計算に対応したものはまだほとんど公開されていない。 そこで、我々はTN法に基づく二次元量子格子模型の基底状態ソルバとして、TeNeS (‘Te’nsor ‘Ne’twork ‘S’olver)を開発し、オープンソースソフトウェアとして公開した。
TeNeS は正方格子iTPS(iPEPS) を用いて波動関数を表現し、虚時間発展法を用いて基底状態を探索する。 正方格子iTPS に基づいているが、正方形の対角方向など長距離相互作用をとりいれることで、三角格子なども計算可能である。 また、任意の(二体)ハミルトニアンを対象としているが、特に三角格子や量子スピン系などの広く使われる格子や模型については、簡便な入力ファイルを用意するだけでよい。 さらに、内部では分散メモリ型テンソル演算ライブラリ mptensor を利用しており、ユーザは特別な指定なしに非自明大規模並列計算を実行できる。
本ポスターでは TeNeS のこのような特徴の他に、具体的な利用方法や計算例を紹介する。


温度グリーン関数の圧縮基底ライブラリ irbasis の紹介と実践

品岡 寛 (埼玉大学)

近年、発表者等によって、温度グリーン関数のコンパクトな基底、IR基底(intermediate representaion)が発見[1]され、量子多体計算・第一原理計算への応用が進んでいる[2,3]。IR基底を使うことで、低温でのデータ量増大を抑え、ダイソン方程式、GW方程式、Migdal-Eliashberg方程式などを高速に解くことが出来る [2,3]。irbasis[4]は、そのIR基底を簡便に使えるPython/C++ライブラリである。本発表では、IR基底を使った計算法・計算例、ライブラリの紹介に加え、Google colabを使った実践も予定している。

[1] H. Shinaoka, J. Otsuki, M. Ohzeki, K. Yoshimi, PRB 96, 035147 (2017)
[2] J. Li, M. Wallerberger, N. Chikano, C.-N. Yeh, E. Gull, H. Shinaoka, PRB 101, 035144 (2020)
[3] T. Wang, T. Nomoto, Y. Nomura, H. Shinaoka, J. Otsuki, T. Koretsune, R. Arita, arXiv:2004.08591
[4] N. Chikano et al., Comput. Phys. Commun. 240, 181 (2019)


密度行列のテンソルネットワーク表現による有限温度キタエフ模型の解析

大久保 毅 (東京大学)

テンソルネットワーク法は、量子多体系の波動関数を局所的なテンソルの積に分解して表現することで、大幅な情報圧縮を行うことで、基底状態波動関数を効率的に表現できる手法である。本発表では、この手法を有限温度に拡張し、密度行列のテンソルネットワーク表現を用いることで、二次元ハニカム格子上のキタエフ模型の有限温度物性を解析した結果を報告する。無限系の密度行列のテンソルネットワーク表現として、purificationを行った波動関数をテンソル積状態(iTPS)で表現する手法と、密度行列をテンソル積演算子(iTPO)で表現する手法を比較し、キタエフ模型を見られる比熱のダブルピーク構造の再現性から、purificationを用いずに、密度行列を直接iTPOで表現する方が効率的なことが明らかとなった。